新しい年に。
「本は他人に薦められて読むべきでない」といったのは、高校時代の恩師 K先生だった。
K先生は僕に初めて酒の味を教えてくれた人であり、校内ではちょっと変わった先生として一目置かれていた。学校が発行する「図書館だより」のような冊子に、各先生方が「私の薦める本」と題して「いかにも・・・」なかんじの本を紹介している中にあって、K先生のばっさりと切るような文章はあまりにも際立っていて、こちらの心に深く突き刺さった。
新刊を取り扱う大きな書店に対し、古本屋さんというのはその性格上ある程度、というかかなり店主の趣味や意向などが反映されていてしかるべきと思われる。特に目立つ位置に置かれているような本は、ほぼ間違いなく店主の薦める本に他ならない。
僕たちは果てしなく広がる本の平野に立っているわけだが、道標としているものは意外と曖昧だったりしている。書評や自らの読書歴による判断ならまだしも、インターネットのランキングや表紙のデザイン、あるいはただの「直感」であったりする場合もなくはないだろう。そうした中で「他人」や自分の尊敬する人が薦めているからといって、必ずしも「自分が」読んでよかったのかどうか疑問に思ったことのある人も少なくはないだろう。自分というのは意外にやっかいなものであることに気づくのである。
結論も何もない訳だが。
昨年の森岡書店さんで、僕が購入した本は、鬼海弘雄『東京ポートレイト』(クレヴィス)、森山大道『NORTHERN』(図書新聞)、森岡督行・平野太呂=写真『写真集』(平凡社)の3冊。
久しぶりに「写真集」というものの良さを実感させられた。
そしてまた、直接に薦められるのではなく、古書店に置かれている本を選ぶというやんわりとした関係が、いいなと思った。
僕の拙い文などより、森岡さんの『写真集』の冒頭に素敵な一文がある。
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旅は遠くに行かなくても、日常のそこここに転がっているといいますが、
森岡書店の入るこの第2井上ビルのような近代建築や、
取り扱う写真集の魅力はその旅への誘いにあると思っています。
その旅は、地平の横軸ではなく、時間の縦軸に沿って進んでゆきます。
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今年もよい仕事と、よい本と、よい人に、めぐり会えたらうれしい。また、願う。
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